経験を通して本当に作りたいものに気づく
それは暮らしの中で長く使える
あたたかい木の小物
2000年/家具輸入会社に就職
2003年/職業訓練校木工科に入校
2009年/結婚を機に家具工場を退職
栃木県小山市に転居2013年/てのひら木工として活動開始
木工作家になるまで
大学ではプロダクトデザインを専攻しましたが、もともと工芸的なものに興味がありました。最初に勤めた会社で、家具の組み立てなどの仕事をしていたのですが、どうしても自分で家具を作ってみたくなり、会社を辞め、職業訓練校で1年間木工を学びました。その後埼玉県の家具工場で特注家具製作の仕事をするのですが、そこで、自分は大きいものを作るのは苦手かもしれない、細かい部分をきれいに仕上げるのが好きなのだ、と気づいたのです。その頃、趣味で通っていた木工作家さんが指導する木のカトラリー教室で、コリコリ小刀で木を削る楽しさを知り、結婚式では、自分で作った木のスプーンを来てくれた方に配ったんです。自分に子供が生まれ、離乳食用のスプーンを木で作ったことをきっかけに、ママ友が注文をくれたり、イベントに出店するようになり、日常的に制作をするようになりました。
仕事と暮らしと環境
家族は夫と、幼稚園と未就園の2人の子ども、義両親、そして犬です。
我が家は田畑が広がる中に建つ築260年くらいの古民家で、昔牛を飼っていた小屋を作業場にしています。細かい作業はこたつに入ってできるのですが、木工機械は音がうるさいので、騒音を出しても近所迷惑にならない環境、元牛小屋の広いスペースを作業場にできることは非常に有難いですね。古い家なのでその辺に転がっている古道具や古建具、家の梁や柱をぼーっと眺めているだけでも、それを作った先人から何か目に見えない刺激をもらっている気がするんです。
義父母と夫は、子どもの面倒を見てくれたり、市の創業セミナーに参加するよう勧めてくれたり、私の作家としての活動を応援してくれています。私は特に意志が強いわけではないので、周りの人の励ましや応援がなければ絶対に木工を続けていなかったと思います。
子どもが小さいので作業時間の確保には苦労しますが、ベビースプーンや身長計など、子どもとの生活がなければ作らなかったであろう作品も多いな、とも感じています。今は早朝や夜や、とにかくできる時に少しずつ作業をする毎日です。
作品についての想い
てのひら木工という名前には、ハンドメイドという意味と、手で触って気持ちのいい物を作りたいという思いを込めています。触るたびに気持ちが落ち着くような物を作って、誰かに使ってもらいたい、というのが私の願いです。スプーンなどは口に入るものなので、手触りと舌触りの両方が心地よいものを目指して作っているんです。特にベビースプーンは、赤ちゃんのかわいい口に入るもの。スプーンを使う赤ちゃんの健やかな成長を祈って、納品前にいつも手を合わせています。
今後のこと
栃木県は林業県なので、今後、地元の木材をもっと使ってみたいと思っています。近くにたくさんあるものでいいものができれば、一番いいですよね。今は主に他県の桜、栗の木などを使っているのですが、栃木県の特産品である杉を、特に使ってみたいんです。杉は日本で古くから使われてきた木材だし、桜・栗・カシ・ケヤキなどに比べて軽くて柔らかく空気を多く含んでいるので、触ったときに暖かいんです。私は杉の加工は今まであまり経験がないので、技術的な研鑽が必要ですが、手で触って気持ちのいいもの、に杉はぴったりではないかと考えています。
また、庭の木など、思い出のある木を伐った時、その木で何か長く残る、暮らしの中で使えるものを作ってみたいという考えもあります。これも丸太や生木の加工は経験がないので試行錯誤が必要なのですが、まずは我が家の木でやってみて、うまくいくようなら、お客様にも木を持ち込んでもらったら面白いな、と思っています。
体の続く限りおばあちゃんになっても作り続けたいと思っています。作り続けるためには、いいものを作って、売り続けるしかないのでしょうね。
てのひら木工さん